オゾン

図1 酸素(O₂)とオゾン(O₃)の関係

オゾン(O₃)とは酸素(O₂)の同位体で、酸素にもう一つOがくっついた化学式で表されます。

オゾン(O₃)は発生器で容易に発生でき、抗菌・抗ウイルス効果を示し、すばやく空気中の酸素に戻ることができるため、除菌と消毒ができる地球にやさしい抗菌物質として注目されています。

オゾン水とはオゾンが溶けこんだ水です。
オゾン水のオゾンは酸化によって除菌した後に水に戻ることができるので、こちらも人体への害を考えずに遣うことができる消毒・除菌薬として利用されています。

本記事で扱うノロウイルスに対してもオゾン・オゾン水は強い除菌効果があることが知られています。

ノロウイルス

ノロウイルスは、ウイルス性胃腸炎を引き起こすウイルスです。

飛沫感染や経口感染で感染することが知られていて、その感染力の高さは院内や学校で食中毒を含み、集団感染を引き起こすため、知名度の高いウイルスになっています。みなさんも一度は「ノロウイルス」という名を一度は耳にしたことがあるでしょう。

一度感染するとノロウイルスは体内の小腸下部で増殖し、感染後1〜2日後に下痢や嘔吐として症状が表れるとされています。

症状自体は3日〜1週間程度で収まり、命に別状はないとされていますが、体力のない方や幼児、お年寄りは特別な治療が必要な場合もあります。
以下ではウイルス学、生物学的により詳細にノロウイルスについて見ていきます。

ノロウイルス
ノロウイルス

High-resolution cryo-EM structures of outbreak strain human norovirus shells reveal size variationsのFig.S3 AをAとし、Fig.2E, FをそれぞれB, Cとしています。

Aはヒトノロウイルスのクライオ電子顕微鏡像を示しています。粒子の外径は490Åで内径は280Å程度で、これまでの先行研究のノロウイルスのデータとも一致しています。

Bはクライオ電子顕微鏡によって撮影した図から三次元再構成を行った3Dモデリング図です。(解像度4.1 Å)
ウイルスに特徴的な正二十面体の構造が非常に美しくモデル化できています。

緑、黄色、ピンク、紫のモノはそれぞれタンパク質を表しており、数種類のタンパク質によってウイルスが構成されていることがわかります。
Cはヒトノロウイルスの3Dモデルの横断図です。

中心からの距離によって色が青から赤色になっています。
また、ウイルスの層構造も見て取れます。

本論文の筆者らは、本研究によって最もヒトに感染性の高いノロウイルスの構造が明らかになったことでノロウイルスに対してのワクチン製剤の開発に拍車がかかるだろうと主張しています。

以上、基礎科学の研究からノロウイルスがどのような「モノ」であるか詳細に解説させていただきました。
ここで強調しておきたいことは、2019年6月現在、最先端の技術、知見を総動員してやっとヒトノロウイルスの構造が明らかになってきたという段階なのです。

つまり、医療の現場でワクチンを実用化したり、ノロウイルスだけにターゲットを絞っての感染対策はまだまだ年月が必要であることが予想されます。

以上のことから、現場レベルでの「効いた」「効いてない」がどれほど重要であるか伝わったでしょうか。

では、こうした知見を踏まえてオゾン・オゾン水がノロウイルスに効果を示す先行研究を読み解いていきます。

顕微鏡

ムラサキウマゴヤシの種子はたくさんの食中毒のアウトブレイクと関連しています。
本研究ではオゾン水がヒトノロウイルスとその代替物(テュレーンウイルスとマウスノロウイルス)の感染を防ぐことができるかどうかを評価しています。


ムラサキウマゴヤシの種子はヒトノロウイルス、テュレーンウイルス,マウスノロウイルスに曝され、6.25 ppmのオゾン水を含んだ状態で0.5, 1, 5, 15, 30分処理しています。

ヒトノロウイルスとテュレーンウイルス、マウスノロウイルスはいずれもオゾン水処理によって消毒効果を示したが、マウスノロウイルスは最も高い消毒効果が示された。

さらに、オゾン水によるウイルスの不活性化は塩素の代替品にもなりうることを示しました。

花

腸管系ウイルスの伝搬は新鮮な食品の生産には大きな懸念点として挙げられる。
一般的に使われる消毒剤は食品の生産は食中毒ウイルスを取り除くことに非効率であることが知られている。

それゆえ、オゾンガスによるウイルスの不活性化に関して本研究では調べています。彼らはオゾンが食品の安全性に貢献に4つの利点があると主張しています。

 ・オゾンは潜在的な消毒薬である。
 ・オゾンは広範囲の微生物に対して効果がある。
 ・オゾンはアメリカでは食品の消毒への使用が許可されている。 
  ※日本においてもオゾンは食品添加物として認められています。
 ・オゾンは自発的に酸素に分解される。

彼らはこうしたオゾンの利点をベースに2つのヒトノロウイルスの代替ウイルス(マウスノロウイルスとテュレーンウイルス)のオゾンガスによる消毒効果を検討しました。

ウイルスを頒布した食品は6%のオゾンガス下で0、10、20、30、そして40分暴露され、ウイルスプラークアッセイを用いてウイルスの生存を評価しました。

ウイルスはその性質として単体で増えることができないため、宿主を利用したプラークアッセイという手法で生存を評価します。
彼らは、その手法を用いてオゾンガスは濃度依存的にノロウイルスを不活性化することを確認しました。

一般にウイルスは他の微生物よりも消毒効果は低いとされていますが、彼らの研究はオゾンガスによる消毒は新鮮な食品の安全品の向上に貢献することが示されました。

ノロウイルス

さて、ノロウイルスがどういった「モノ」か、そしてそんな「ノロウイルス」がオゾンガスやオゾン水によって消毒されることをこれまで解説させていただきました。

ただ、こちらの拙文をお読みになった方にはなんとなく伝わったかと思いますが、実際の基礎研究ではオゾンがどのようにウイルスに直接的に関与するのか、詳細なメカニズムは明らかでありません。

しかしながら、オゾンは確かにウイルスの感染効果を抑制することが知られているのです。

重要なことはメカニズムが明らかになっていないことではなく、オゾンが確かにノロウイルスの感染予防に効果があるという点です。

ここで、ウイルスの構造に着目し、オゾンがどのようにノロウイルスの感染機構に影響を及ぼすか簡単に考察してみます。
ヒトノロウイルス自体は正二十面体を持っていることが明らかになっており、中は層構造を形成していることがわかっています。

また、オゾンは細菌を直接破壊するのではなく、細胞内器官に影響を及ぼし、増殖を防ぐことが先行研究によって示唆されています。
これらから考えられることはおそらく、オゾンはノロウイルスのウイルス内に侵入し、ウイルスの増殖に欠かせない因子をブロックするような働きをすることでウイルスの感染効果を抑制していると考えられます。

本仮説を証明するためには、オゾン暴露下でのノロウイルスの形態学的検討や構造解析が必要で、今後の基礎科学的なさらなるアプローチが待たれます。

今回はウイルス学的なウイルスとしての知見はほどほどに、より基礎科学的な観点からノロウイルスを解説し、オゾン・オゾン水による抗ウイルス、感染予防効果を紹介させていただきました。

「ウイルスを消毒する」と言葉では言っても中々その実体は理解しにくいですよね?とんでもなく複雑で多様な構造を持っているノロウイルスを基礎科学的なアプローチで一つ一つ対処していくためにはまだまだ多くの年月がかかります。

しかしながら、実際現場レベルの研究で、オゾンという化学物質によってノロウイルスが消毒され得ることが示されているのです。

オゾン・オゾン水は塩素による消毒と同じかそれ以上のレベルで消毒効果を示すことも示唆されており、人体への害も無いため、今後のノロウイルスの感染予防のスタンダードになるかもしれません。

「オゾン発生器」をチェック