コムギゾウムシなど貯蔵害虫にオゾンは効くのか|検証実験からわかる条件と限界
サイロや倉庫、コンテナといった貯蔵施設への害虫の侵入は、食品業界でも飼料業界でも大きな課題です。害虫による穀物の汚染や、害虫が産生する毒素(マイコトキシン)による損害は、世界全体で年間5億ドルを超える可能性があるとも指摘されています(Hareinら, 1995)。
こうした貯蔵害虫の対策では、長く燻蒸や殺虫剤が使われてきました。しかし、これらの方法には限界もあります。そこで近年、別の選択肢のひとつとしてオゾンに注目が集まっています。
この記事では、クロアチアのザグレブ大学が行ったコムギゾウムシ(Sitophilus granarius)に対するオゾンの検証実験(Lemicら, 2019)を整理しながら、「オゾンはどんな条件で、どこまで効くのか」「実際の貯蔵・倉庫で考えるときに何を確認すればよいのか」を見ていきます。なお、この検証はオゾンマートの自社実験ではなく、第三者の研究機関による研究結果です。
この研究が検証したこと(目的と背景)
貯蔵害虫対策が抱える課題
貯蔵中の穀物に発生する害虫は、これまで接触殺虫剤や燻蒸、冷却、熱処理などを組み合わせて抑えられてきました。ただし、いくつかの課題が指摘されています。
接触殺虫剤では、穀粒の内部にいる虫卵や幼虫まで駆除しにくいとされます。また燻蒸は毒性が高く、害虫が薬剤への耐性を獲得する一因になりやすいとも報告されています(Reesら, 1996)。
加えて、検疫で広く使われてきた臭化メチルによる燻蒸は、オゾン層破壊との関連が指摘されたことから、1995年に国際条約で使用が禁止されました(Johnsonら, 1998)。こうした背景から、新しい防虫方法が求められるようになっています。
オゾンは強い酸化作用を持つ一方で、反応後はすぐに酸素へと戻り、処理後に残りにくいという性質があります。米国では2001年に食品医薬品局(FDA)がオゾンを食品の処理・保管・加工用の抗菌剤として承認し、農務省(USDA)もオーガニック食品加工での使用を認めています。飲料水の浄化や空気の清浄化などにも世界で使われてきました。
この検証が明らかにしようとした3つの点
オゾンの害虫への効果は、これまであまり定量的に示されてきませんでした。そこでこの研究では、コムギゾウムシを対象に、次の3点を明らかにすることを目的としています。
- 高い死亡率(95%超)を達成するために必要なオゾンの暴露時間
- 昆虫の歩行活動と速度に対するオゾンの影響
- 死亡率と、オゾン処理後の経過時間との関係
ヨーロッパでの貯蔵害虫向けオゾン研究は、デンマークでの1件を除きほとんど行われておらず、この研究はクロアチアでは初めてのものとされています。
検証の前提知識|オゾンが害虫に作用する仕組み
オゾンが昆虫に作用すると考えられている経路
オゾンは強い酸化作用を持つ気体です。細菌に対しては、細胞膜を壊して内部に入り込み、細胞の構成成分を酸化して分解することがわかっています。
昆虫に対する作用は、まだ完全には解明されていません。ただし、細菌に対するのと同じように、オゾンが呼吸器から体内に取り込まれ、体のあちこちで酸化反応を起こして大きな損傷を与えると考えられています(Tiwariら, 2010)。
ここで押さえておきたいのは、コムギゾウムシの卵や幼虫は穀粒の内部にいることが多く、成虫よりも駆除が難しい点です。後述するように、卵や幼虫にはオゾンが効きにくいという報告もあり、対象が成虫なのか、卵・幼虫を含むのかで考え方は変わります。
残留しないという性質の意味
オゾンは反応後にすぐ酸素へと戻るため、処理後に残留しにくいとされています。これは、薬剤が残りやすい燻蒸との違いのひとつです。
オゾンは「残りにくい」性質を持つ一方で、高い濃度では人体にも刺激や害を与えうる気体です。「残らないから安全」と単純に考えず、使用中は無人にする、処理後に十分換気するといった前提とセットで扱うことが大切です。
検証の設計と方法(使用機器・サンプル・条件)
この研究は、2019年1月から3月にかけて、クロアチアのザグレブ大学農学部で実施されました。実験室は温度24±2℃、湿度50〜60%に管理されています。
使用したオゾン発生器とサンプル
オゾン処理には、電荷を使って空気中の酸素(O₂)をオゾン(O₃)に変換するタイプの発生器(Tiens社 DiCHO、オゾン出力150mg/h)が使われました。
対象となる昆虫は、民間の貯蔵施設で保管されていたトウモロコシから採集されたコムギゾウムシの成虫です。実験には合計880匹を用い、内訳は虫体に直接オゾンを当てる群が400匹、穀物と混ぜた群が400匹、オゾンを当てない対照群が80匹でした。
2通りの暴露方法(虫体への直接暴露/穀物と混合)
オゾン処理は、20×20cmの専用プラスチックチャンバーの中で行われました。チャンバー上部からチューブを入れ、発生させたオゾンを注入しています。
暴露方法は、ゾウムシだけをオゾンに当てる「直接暴露」と、ゾウムシを穀物に混ぜた状態で当てる「穀物中での暴露」の2通りです。暴露時間は10分、20分、30分、60分、120分の5段階を比較し、それぞれ20匹ずつ4回繰り返して死亡率を記録しました。
死亡率はオゾン処理後の1日目、2日目、3日目、7日目、10日目、15日目に確認しています。あわせて、生き残った個体の歩行のしやすさ(20秒間に移動した平均距離)や、20cmの円の外に出るまでの時間で測った移動の速さも調べています。
検証結果|暴露時間・暴露方法と死亡率
結果として、オゾンの暴露時間と暴露方法(直接当てるか、穀物中で当てるか)が、死亡率に大きく影響することがわかりました。
もっとも高い効果が見られたのは、120分間の暴露です。120分より短い暴露時間どうしでは、時間による効果の差ははっきりしませんでした。また、穀物中で暴露した場合のゾウムシの死亡率は、虫体に直接当てた場合より低くなりました。
| 暴露方法 | 暴露時間 | 死亡率が最大に達した時期 |
|---|---|---|
| 虫体への直接暴露 | 120分 | 処理7日目に100% |
| 穀物と混ぜた状態での暴露 | 120分 | 処理15日目に最大 |
この差は、穀物に潜り込んだ昆虫にはオゾンが届きにくいことと関係していると考えられます。なお、これらは小型チャンバー内の特定条件で得られた結果です。
歩行・移動性に対するオゾンの影響
この研究では、死亡率だけでなく、生き残った個体の動きにもオゾンの影響が見られました。
歩行のしやすさは、すべてのサンプルで、オゾン暴露後の1〜2日目にいったん低下し、その後やや回復したのち、15日目に大きく低下する傾向が認められました。直接暴露と穀物中での暴露の違いは、120分間の暴露で最もはっきり現れています。直接暴露では2〜3日目まで動く個体が見られたものの、7日目までに100%が死亡しました。穀物中の暴露では、2日目に歩行反応が大きく下がり、その状態が実験終了まで続いています。
移動の速さについては、どの処理でもオゾン処理の直後にいったん速くなり、その後低下しました。やはり120分間の暴露で速度が最も低くなり、特に穀物中で120分当てたグループで、著しい速度低下が目立ったと報告されています。
このように、オゾンには害虫を弱らせて動きを鈍らせる作用も見られました。動けなくなることは、処理した空間から害虫が逃げ出しにくくなるという点で、害虫対策上の特徴のひとつと位置づけられています(Sousaら, 2008)。
結果から読み取れること(考察)
この研究は、コムギゾウムシの成虫に対してオゾンが強く作用し、条件によっては100%の死亡率に達することを、定量的なデータとともに示しました。そして、有効な死亡率を得るための条件(直接暴露か穀物中か、暴露時間など)を具体的に示した最初の研究と位置づけられています。
卵・幼虫には効きにくいという報告との関係
ここで注意したいのが、効果の及ぶ範囲です。これまでの研究では、昆虫の卵や幼虫にはオゾンが効きにくいという報告がある一方で、幼齢の幼虫には効きやすいとする報告もあり、昆虫の発育段階とオゾン効果の関係ははっきりしていません。
この検証はあくまで「成虫」を対象にしたものです。穀粒の内部にいる卵や幼虫まで含めてどこまで抑えられるかは、この結果だけからは判断できない点に留意が必要です。
過去研究より低い濃度で効果が出た背景
この研究で使われたオゾンの濃度は、過去の研究と比べてかなり低い水準だったと報告されています。たとえば過去の研究では20〜135ppm程度、別の研究では総計1800ppmといった高い濃度が使われていました。
ただし研究者らは、研究ごとに必要なオゾン量に大きな差があるのは、使われた発生器の性能の記述が十分でなかったり、空気中のオゾン量の計算方法が示されていなかったりすることが理由ではないかと指摘しています。つまり、研究間で数値を単純に比較するのは難しいということです。
そのうえで、今回のクロアチアの個体群が比較的少ないオゾンでも影響を受けた理由として、研究者らは、この昆虫が害虫駆除製品で処理されていない民間の貯蔵施設由来であり、オゾンに敏感だった可能性を挙げています。これらは特定の条件下で得られた結果であり、すべての貯蔵施設や害虫にそのまま当てはまる数値ではない点を押さえておくとよいでしょう。
この結果を実際の貯蔵・倉庫で考えるときの前提条件
検証室での結果を、そのまま実際の貯蔵・倉庫に当てはめることはできません。応用を考えるときは、いくつかの前提を整理しておくと判断しやすくなります。
機器分類と有人・無人の前提
貯蔵空間をオゾンで満たして害虫に作用させる使い方は、人がいない状態で行うことを前提とした、業務用機器の領域です。家庭用の機器と同じように考えることはできません。
オゾンは高い濃度では人体にも害を与えうるため、この用途では原則として無人での運用が前提になります。処理後は十分に換気し、人が立ち入るタイミングを管理する必要があります。どのタイプの機器が、どの空間や運用を想定しているかは、製品の仕様や取扱説明書をもとに確認することが大切です。
空間容積・密閉・対象物との関係
今回の検証は20×20cmの小さなチャンバーで行われたものです。実際のサイロや倉庫は、これとは桁違いの容積を持ちます。同じような効果を狙うなら、空間の大きさや密閉性に応じて、濃度や時間といった条件を設定する必要があります。
また、穀物に潜り込んだ昆虫には直接暴露より効きにくいという結果からは、山積みになった穀物の奥までオゾンを届かせるには、より長い時間がかかる可能性が読み取れます。対象が「むき出しの空間」なのか「穀物の内部」なのかで、考え方は変わります。
貯蔵害虫対策でオゾンを検討するときの確認観点
実際にオゾンを検討する際は、次のような観点を確認しておくと、自分のケースに合うかどうかを判断しやすくなります。
- 対象は成虫か、それとも穀粒内部の卵・幼虫も含むか(卵・幼虫には効きにくい報告がある)
- 対象空間を無人にして、必要な濃度と時間を確保できるか
- 穀物に潜った害虫にまで届かせる時間を見込めるか
- 処理後の換気や、人が立ち入るタイミングを管理できるか
- オゾン単独で完結させるか、既存の対策と組み合わせるか
- 検討している機器が、その空間規模や用途に対応しているか(製品仕様で確認)
これらは「どちらが正解か」ではなく、自分の現場の条件と照らし合わせて考えるための材料です。
貯蔵害虫対策の選択肢としてオゾンをどう位置づけるか
今回のクロアチアの研究は、成虫のコムギゾウムシに対してオゾンが明確な影響を与え、条件によっては高い死亡率に達することを示しました。死亡率だけでなく、害虫の動きを鈍らせて逃げにくくする作用が見られた点も、貯蔵システムでの害虫対策における特徴のひとつとされています。
研究者らは、オゾンが単独で、あるいは他の対策を補う形で、人や家畜向けの貯蔵システムにおける害虫抑制の現実的な選択肢になりうると結論づけています。
一方で、これは限定された条件下での「予備的」な研究です。卵や幼虫への効果、より大きな空間での再現性、貯蔵タイプによる違いなど、今後さらに確かめるべき点が残されています。実際の導入を考えるときは、こうした限界を踏まえたうえで、自分の現場の条件に合うかどうかを確認していくことが現実的です。
出典:Lemic D, Jembrek D, Bažok R, Pajač Živković I, Ozone Effectiveness on Wheat Weevil Suppression: Preliminary Research, Insects, 2019.
よくある質問
コムギゾウムシなどの貯蔵害虫にオゾンは効きますか?
成虫には、暴露時間などの条件が整えば高い効果が報告されています。クロアチアの研究では、成虫を直接オゾンに120分あてた条件で、処理7日後に100%の死亡が確認されました。ただし穀物に潜った個体や卵・幼虫には効きにくいとの報告もあり、対象や条件によって結果は変わります。
オゾンはどれくらいの時間あてると効果が出ましたか?
この研究では、120分の暴露で最も高い効果が見られました。10〜120分を比較した結果、120分が最も効果的で、それより短い時間どうしでは差がはっきりしませんでした。また直接暴露では7日目に100%、穀物中では15日目に最大の死亡率に達し、暴露方法によっても差が出ています。
卵や幼虫にもオゾンは効きますか?
卵や幼虫には効きにくいとする報告があり、はっきりしていません。今回の研究は成虫が対象です。過去には卵や幼虫に効きにくいという報告がある一方、幼齢の幼虫には効きやすいとの報告もあり、発育段階との関係は定まっていません。穀粒の内部にいる個体への効果は、別途の確認が必要です。
オゾンは処理後に残りませんか?
オゾンは反応後に酸素へ戻るため、処理後に残りにくい性質があります。これは薬剤が残りやすい燻蒸との違いの一つです。ただしオゾン自体は高い濃度では人体にも刺激や害を与えうるため、残らないから安全とは単純に言えません。使用中は無人にし、処理後に換気する前提とセットで考える必要があります。
