コムギゾウムシ抑制に対するオゾンの有効性:予備研究

貯蔵施設内(サイロ、倉庫、コンテナ)への昆虫の侵入は、人間と家畜の飼料産業の両方で大きな問題です。
昆虫の保存食やマイコトキシンによる汚染損害は、世界中で年間5億ドルを超える可能性があるとされます。

貯蔵施設内(サイロ、倉庫、コンテナ)への昆虫の侵入は、人間と家畜の飼料産業の両方で大きな問題です。
昆虫の保存食やマイコトキシン(カビが産生する毒素)による汚染損害は、世界中で年間5億ドルを超える可能性があるとされます。(Hareinら,1995)
さらに、昆虫の穀物や貯蔵食品への残存と昆虫廃棄物は、人と家畜に健康上の大きなリスクをもたらす可能性があります。

現在、貯蔵作物中に生息する害虫は、接触殺虫剤を使用したり、燻蒸による貯蔵物の洗浄、冷却、熱処理までの異なる方法の組み合わせで抑制されています。しかし、虫卵と幼虫は接触殺虫剤では駆除できず、燻蒸は毒性が高く、害虫の耐性株発生の大きな要因となるなどいくつかの問題があります。 (Reesら,1996)

従来より、検疫での植物材料の標準的な処理用に広く使われてきた臭化メチルでの燻蒸は、臭化メチルにオゾン層破壊との関連性が指摘されたため(Johnsonら,1998)、1995年に国際条約により使用禁止となりました。
このため現在、貯蔵および輸送システムにおける害虫駆除の方法は限定的となっていて、新しい防虫方法の開発が求められています。

そこで、以前より用いられて効果を発揮しているオゾンに注目が集まっています。(Strait,1998;Kellsら,2001;Isikberら,2009)
オゾンの細菌への作用は非常に強力で、細胞膜を破壊して細胞内に侵入し、細胞構成成分を酸化して分解。昆虫への作用に関してはまだ解明されてはいませんが、細菌に対するのと同様の作用で昆虫の呼吸器から体内に侵入し、至る所で酸化反応を起こして、生体に大きな損傷を与えるものと考えられています。(Tiwariら,2010)

オゾンにはこのように非常に強力な酸化効果のほかにも、反応後すぐに酸素に変わるため、残留性がないという安全面がメリットです。

米国では、2001年6月にFDA(米国食品医薬品局)が、オゾンを「気相および水相での食品の処理、保管、および加工用の抗菌剤」として使用することを承認しました。
また、米国農務省(USDA)がオゾンのオーガニック食品加工に際しての使用を承認しており、政府のお墨付きで食品業界で広く使われています。 (United States Environmental Protection Agency,2019)
そのほか、オゾンは、飲料水の浄化、バクテリアの破壊、空気の清浄化、アフラトキシン汚染の低減に世界で広く使用されています。(Prudente&King,2002;Sopherら,2002;Inanら,2006;Whiteら, 2009)

最近では、生産過程での殺菌を始めとしてオゾンの農業での使用が広がっていますが、昆虫に対するオゾンの効果は余り知られていませんでした。近年、倉庫内の昆虫に関するオゾンの作用に関する研究が行われ、徐々にその効果が明らかにされ始めています。(Hansenら,2012;Sousaら、2008;EXら,2017;Bonjourら,2011;Masonら,1997)

オゾン処理の効果は、ゾウムシ、赤粉カブトムシ、ハムシなどの穀物食昆虫での報告が多く (Hansenら,2012;Sousaら2008;Bonjourら,2011;Masonら,1997)、コナガなどのガでも知られています。(Strait,1998;Kellsら,2001;Leesch,2002;Isikber)
一方、昆虫の卵や幼虫にはオゾン効果が及びにくいとする研究結果も報告されています。(Hansenら,2012;Leesch,2002;Bonjourら,2011)
これに対して、オゾン効果が、幼齢の幼虫の駆除に対する方が強いとの報告もあって(Takigawaら,2011)、昆虫の年齢とオゾン効果の関係は明確になっていません。

ヨーロッパでの昆虫防除のためのオゾンの使用に関する大規模な研究は、デンマークでの1件の研究を除き、実施されていません。(McDonoughら,2011)
従って、この研究は、クロアチア共和国では初めてのものです。

この研究では、オゾン処理の有効性が報告されているコムギゾウムシに対するオゾン効果を定量的データに基づいて明らかにすることです。
すなわち、

(1)満足なコムギゾウムシ死亡率(>95%)を達成するために必要なオゾン暴露時間
(2)昆虫の歩行活動と速度または速度に対するオゾンの影響
(3)死亡率とオゾン処理後の時間の関係を解明すること


以上を目的に行われました。

この研究は、2019年1月から3月にかけて、クロアチアのザグレブ大学農学部農業動物学科の研究室で実施されました。
実験室の温度は24±2°C、湿度は50調査期間全体で–60%に管理。

オゾン発生器

Tiens d.o.o.のオゾン発生器モデルDiCHO(Tiens Company、北京、中国)がオゾン処理に使用されました。
このデバイスは、電荷を使用してO₂を空気からO₃(オゾン)に変換します。オゾン出力は150mg/hです。(Ozonatori,2019)
このオゾン出力は、2.5mgのオゾン/Lの水または0.001ppmのオゾン/Lの空気を生成しました。(Ozonatori,2019)

昆虫とオゾン処理

本研究では、民間の貯蔵施設で貯蔵されたトウモロコシから収集されたコムギゾウムシ成虫(Sitophilus granarius)が用いられました。
オゾン処理は、20×20cmの専用プラスチックチャンバー内で実施されました。
チャンバー上部の開口部からチューブを中に入れて、オゾン発生器で発生させたオゾンを注入。

コムギゾウムシのオゾンへの暴露は、ゾウムシ単体の状態とゾウムシを穀物と混ぜた状態での2通りの方法で行いました。
実験には合計880匹のゾウムシを用い、うち400匹が単体でのオゾン暴露群、400匹が穀物と混合した群、80匹が非処理のコントロール群です。

実験用昆虫は、オゾンがチャンバー全体に自由に流れるように50mLのガラス製のふたなし容器中でオゾンに暴露されました。

実験の独立変数は、オゾンへの暴露時間(10、20、30、60、または120分)でした。
従属変数はゾウムシの死亡率でした。実験は、1回に20匹の小麦ゾウムシを使って4回繰り返されました。

全てのサンプルで実験条件を同じにするために、ゾウムシ単体をオゾン処理した後、トウモロコシの粒を容器に追加。
全てのサンプルの死亡率を、オゾン処理後1、2、3、7、10、および15日目に記録しました。
生存個体については、歩行反応を各試験期間でモニターし、サンプル個体が20秒間に移動した平均距離をグリッド紙(ミリメートル)を使用して測定しました。
グリッド紙(ミリメートル)に20cmの円を描いて、移動性に加えて昆虫の速度を監視でき、サンプル昆虫群を中心に置いて、生存個体群の大部分が円の外に出るのに必要な時間を測定しました。

「オゾン発生器」をチェック

オゾンによるコムギゾウムシ抑制効率

オゾン暴露時間とオゾン暴露方法(虫体への直接暴露あるいは穀物中の昆虫への暴露)は、昆虫の死亡率に大きく影響しました。
最高のオゾン効果は、120分間の暴露時間で観察されました。
120分より短い暴露時間では、時間による効果に有意差は観察されませんでした。

穀物中のコムギゾウムシへのオゾン暴露でのゾウムシ死亡率は、虫体にオゾンを直接暴露した場合より低いものでした。オゾンに120分間直接暴露されたゾウムシの100%死亡率は暴露後7日目に観察されたのに対して、穀物中で、オゾンに120分間暴露した昆虫の最大死亡率は15日目に確認されました。

コムギゾウムシの歩行反応と速度に対するオゾンの影響

全てのサンプルについて、オゾン暴露後の1日目と2日目に歩行反応の低下が観察された後、いったん反応が増加し、最終的に暴露後15日目に大きく減少する傾向が認められました。
オゾンの虫体への直接暴露あるいは穀物中の昆虫への暴露による違いは、オゾン暴露時間が120分間の場合に最も明瞭に観察されました。直接暴露された昆虫では、2日目と3日目まで移動する個体が見られたものの、実験開始後7日目までに100%の死亡を確認。同じ条件下で、穀物中で暴露された昆虫の場合、2日目に歩行反応が大幅に低下し、実験終了時までその反応は最低の状態が続きました。
オゾン暴露時間が120分間の場合に、すべてのゾウムシが最も強い悪影響を受け、歩行応答が最低レベルになったことが明らかになりました。速度試験では、全ての処理区で、オゾン処理直後(読み取りの最初の日)にゾウムシの歩行速度が速くなり、その後、歩行速度が低下。120分間のオゾン暴露が、全てのサンプルに悪影響を及ぼし、歩行速度が最低レベルになったことが明らかになりました。

穀物中でオゾンに暴露されたゾウムシサンプルでは、他の全ての条件での実験結果と比較して、暴露時間120分間の処理グループでの著しい速度低下が目立ちました。 テスト期間全体にわたって、この他の実験条件では、虫体への直接暴露あるいは穀物中の昆虫への暴露の両方の処理条件の間で結果に有意差は認められませんでした。

実験期間の15日間を通してゾウムシの半減期は徐々に低下しました。 オゾン暴露の15日後に、両昆虫群について最小半減期が計算されました。 ただし半減期は、穀物中の昆虫にオゾンを暴露した場合よりも、オゾンを直接昆虫に暴露した場合の方が低いものでした。
直接暴露された昆虫のグループの回帰直線の傾きは2.13から3.6の間で変化し、穀物で処理された昆虫のグループの傾きは1.17から2.22の間で変化しました。

これまでに、トウモロコシのゾウムシ、コメゾウムシ、およびコガネムシを含む他の貯蔵害虫に対するオゾンの有効性が示されていますが (Hansenら,2012;Strait,1998;Kellsら,2001;Leesch、2002;Isikberら,2009;Bonjourら,2011)、定量的な実験結果は公表されていませんでした。

本研究では、オゾンがコムギゾウムシ成虫の生存に強い影響を及ぼし、最大100%の死亡率を達成することを実証しました。また、有効な死亡率を達成するための条件(オゾンの虫体への直接暴露または穀物中の昆虫への暴露、オゾン処理濃度)を具体的に明らかにした最初の研究となりました。

ゾウムシをオゾンに直接曝露した方が、ゾウムシを穀物に混ぜてオゾン暴露した処理よりも、より高い有効性が観察され、半減期も低いことに加えて、回帰勾配がより高いことも確認されました。

上記の研究で使われたオゾンレベルは20、35、75、100、および135ppmで、本研究で使用された線量よりも数倍高くなっています。
(この研究で使われたオゾンの最大量は0.006ppmでした)

昆虫単独と穀物と混合した昆虫へのオゾン作用を検討した研究としてHansenら(2012)の報告があります。彼らは、コムギゾウムシ(S.granarius )とは別種のゾウムシであるS.speciesについて、100%死亡率を達成するのに、昆虫単独では35ppmのオゾン暴露で5日間、穀物との混合の場合には135ppmのオゾン暴露で8日間が必要でした。

McDonoughら(2011)は、S.zeamaisで100%の死亡率を達成するために総計で1800ppmのオゾンが必要であったとしています。
この研究でのオゾンの最大放出量は以前の研究でテストしたレベルよりもはるかに低い0.002ppm(2時間のオゾン処理時間で300mg(5mg/L)の出力に相当)で、オゾン処理後1週間以内にコムギゾウムシの100%の死亡率を達成しました。研究ごとに、高効率を達成するために必要なオゾン量に大きな違いがありますが、その理由は、それぞれの研究で使用されたオゾン発生器の性能が正確に記述されていない点や、空気1リットルのオゾン量の計算方法が明示されていない点にあると考えられます。

前述の研究(Sousaら,2008;Subramanyamら,2017;Bonjourら,2011;Masonら,1997;Takigawaら,2011;McDonoughら,2011) では、人間への毒性が危惧される0.1ppmを超える非常に高いオゾン濃度が使われています。このため、これらの研究で示されている数値は空気中のオゾン濃度ではなく、オゾン発生器の出力パワーの値を示したものと推定されます。

本研究で使用されたオゾン濃度とオゾン暴露時間は、以前の研究(Sousaら,2008;Subramanyamら,2017;Bonjourら,2011;Masonら,1997;Takigawaら,2011;McDonoughら,2011) と比べて、はるかに小さく、短いものです。このため、本研究での実験サンプルに用いられたクロアチアのコムギゾウムシの個体群は、オゾン噴霧に非常に敏感であることを示唆しています。このことは、調査されたゾウムシの個体群が、以前の研究で使われていたような害虫駆除製品で処理されたものではなく、民間の貯蔵施設からのものであったためです。

次に、本研究では、コムギゾウムシの歩行と速度に対するオゾンの影響も調査しました。トウモロコシのゾウムシで行われた唯一の以前の歩行反応と速度の研究(Sousaら,2008)では、オゾンの効率が上がると歩行反応が低下することを報告しています。予想通り、これは我々の研究の結果によっても再確認され、オゾンが昆虫の歩行反応と速度に影響を与えることを明らかににすることができました。このことは、これまで他の昆虫では知られていないオゾンの効果です。

本研究から得られた他の興味深い結果として、オゾン暴露直後の歩行活動の減少と数日後の活動の増加、そしてさらにオゾン暴露後約10日で見られる歩行活動の減少があります。その他、オゾン暴露後のコムギゾウムシの歩行速度は低下し、調査期間全体を通じて低いままでした。歩行活動と速度の低下は、120分間のオゾン暴露を行った際に最も顕著に現れました。

昆虫の歩行活動と速度を低下させるオゾンの能力は、貯蔵システム内の害虫駆除における新しい特徴であり、このオゾンの力によって、昆虫がオゾン噴霧したシステム内から逃げることを防げます。(Sousaら,2008)貯蔵タイプによって昆虫の歩行活動と速度が変化する可能性があるため、今後、野外条件下の異なる貯蔵システムで、この研究を実施する必要があります。

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