オゾンコラム

オゾンとプリオン|不活化しにくいプリオンに、オゾンは作用するのか

オゾンとプリオン|不活化しにくいプリオンに、オゾンは作用するのか

オゾン(O₃)は、強い酸化作用を持つ気体です。この酸化作用によって、菌やウイルスを不活化したり、においのもとを分解したりする働きが知られています。

そのオゾンが、通常の消毒では不活化しにくいことで知られる「プリオン」に対しても作用するのか。この問いを調べた研究があります。

本記事では、プリオンとは何か、なぜ不活化が難しいのかを整理したうえで、オゾンによる不活化を調べた研究が「どの条件で」「何を示したのか」を見ていきます。あわせて、どこまでが確認済みで、どこからが未確認の展望なのかも、はっきりと分けて整理します。

プリオンとは何か|通常の消毒では不活化しにくい理由

プリオン蛋白質の構造をイメージした画像

プリオンとは、感染性を持つとされる異常型の蛋白質のことです。プリオン病は、このプリオンが原因で起こる神経変性疾患の総称です。

私たちの体内には、もともと正常型のプリオン蛋白質が存在しています。正常型は「αヘリックス」と呼ばれる、安定したらせん構造を多く含んでいます。

一方、異常型のプリオン蛋白質は「βシート」という、より固い構造を多く含みます。この異常型は、いくつもつながって「アミロイド」と呼ばれる繊維状の構造をつくります。

このアミロイド構造は、エネルギー的にとても安定しているとされています。そのため、通常の加熱や薬剤による消毒では、簡単には壊れません。

一般的な菌やウイルスは、熱や薬剤で活動を止めることができます。しかしプリオンは、こうした通常の消毒・殺菌の条件下に置かれても、感染性を失いにくいとされています。

ごく微量でも感染性を持つとされる点も、取り扱いに注意が必要とされる理由です。プリオンが「不活化しにくい」と言われるのは、こうした性質によります。

プリオン病が恐れられてきた理由

草を食べる牛の群れ

プリオン病は、疾患としての危険性が高いことで知られています。発症すると有効な治療法がなく、進行を止めることが難しいとされてきました。ここでは、その背景を整理します。

BSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病

プリオン病の中でよく知られているのが、牛海綿状脳症(BSE)です。一時期、ニュースで大きく取り上げられたため、記憶にある方も多いかもしれません。

BSEがとくに注目されたのは、ヒトへの感染が問題になったためです。BSEに関連してヒトが発症する病気は、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれます。

クロイツフェルト・ヤコブ病は、認知症の症状を伴い、脳が海綿状に変化していくとされる疾患です。進行が速く、根本的な治療法は確立されていません。

通常の感染症は、原因となる菌やウイルスを不活化することで予防できます。しかしプリオンは不活化しにくいため、予防が難しいという特徴があります。

異常型プリオンが増えていく仕組み(シーディング)

健康な体内で、プリオン蛋白質が異常型に変わることは、ほとんどないとされています。問題は、異常型のプリオンが一度体内(脳内)に入ったときに起こります。

異常型のプリオン蛋白質は、もともと存在している正常型のプリオン蛋白質を、次々と異常型に変えていくとされています。この現象は「シーディング」と呼ばれます。

つまり、異常型のプリオンそのものが、正常型を異常型に変える「鋳型」のように働くと考えられています。そして、この変換は連鎖的に進むとされています。

こうした仕組みは、マウスやラットを用いた実験だけでなく、試験管内の蛋白質の実験でも確かめられてきました。一度増え始めると止めにくい点が、プリオン病の大きな特徴です。

プリオンの感染様式が解明されるまでの研究史

研究を進める様子のイメージ画像

プリオンが「蛋白質そのものが感染性を持つ」という考え方は、最初から受け入れられていたわけではありません。当初は、未知のウイルスが原因だと考えられていました。

この常識をくつがえす発見は、複数の研究者によって積み重ねられてきました。ここでは、その流れを簡単にたどります。

ガジュセックとクールー病の研究

20世紀の前半は、多くの病気の原因が「ウイルス」や「細菌」として理解されていった時代でした。

そんな時代に、ガジュセックは、パプアニューギニアで見られた「クールー」という病気を研究しました。クールーは、神経の変性を伴い、死に至るとされる病気で、現在ではプリオン病の一つと考えられています。

クールーが、ほかの感染症と大きく異なっていた点があります。ウイルス感染で見られるような炎症反応がなく、感染してから発症するまでの時間が極端に長いことです。

ガジュセックは、現地の人々とともに生活しながら原因を探りました。そして、当時行われていた、亡くなった近親者を弔う風習の中に、感染が広がる要因があることを見出しました。

ガジュセックはこの風習を控えるよう働きかけ、結果としてクールーは大きく減少していったとされています。さらに、患者の脳の組織をサルに接種すると、同様の症状が現れることを実験室で示しました。

これらの成果により、ガジュセックは1976年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。彼は、クールーを引き起こす感染性の粒子を、通常とは異なるウイルス(スローウイルス)と名づけました。

プルシナーによる「プリオン」の発見

ガジュセックは、感染性の粒子が何らかの形で存在することを示しましたが、その正体までは突き止められませんでした。

その正体に迫ったのが、プルシナーです。彼は医師であると同時に生化学にも明るく、感染性の粒子を調べるための技術的な素養を持っていました。

一般に、ウイルスは増えるために核酸(DNAやRNA)を必要とし、細菌は熱や薬剤に弱いとされています。プルシナーは、核酸を分解し、細菌を抑える処理をしても感染性が残るなら、その正体は蛋白質ではないかと考えました。

実験の結果、ウイルスや細菌を不活化するための処理をしても、感染性は保たれていました。一方で、蛋白質の構造を壊す処理を加えると、感染性が失われました。

ここからプルシナーは、感染性の本体が蛋白質であると結論づけ、これを「プリオン」と名づけました。プリオンとは、「感染性を持つ蛋白質性の粒子」という意味でつくられた言葉です。彼は1997年にノーベル医学・生理学賞を受賞しています。

ワイシュマンの実験が示したこと

プリオンの理解をさらに進めたのが、ワイシュマンです。ノーベル賞受賞者ではありませんが、プリオン研究において重要な業績を残した研究者です。

ワイシュマンは、分子生物学の手法を用いて、プリオン蛋白質のアミノ酸配列を特定しました。なお、アミノ酸配列が蛋白質の構造を決めるという考え方は「アンフィンセンのドグマ」として知られています。

さらにワイシュマンは、プリオン蛋白質をまったくつくれないマウス(ノックアウトマウス)を作製しました。このマウスにプリオン病の感染を試みても、感染しなかったとされています。

この結果は、もともと体内にある正常型のプリオン蛋白質が、プリオン病の発症に必要であることを示しています。

加えてワイシュマンは、異常型プリオンが試験管内でアミロイド繊維をつくることや、種を超えて伝わりうることも示しました。これらは、プリオン病がプリオン蛋白質によって起こるという考え方を、強く裏づけるものとなりました。

オゾンによるプリオン不活化を調べた研究が示したこと

ここまで見てきたように、プリオンは不活化しにくい蛋白質です。では、強い酸化作用を持つオゾンは、プリオンに対して作用するのでしょうか。

これを調べたのが、「Kinetics of Ozone Inactivation of Infectious Prion Protein」という論文です。査読を経た学術誌(Applied and Environmental Microbiology、2013年)に掲載されています。論文の内容は、実験手法やデータ、発表元などを多角的に踏まえて読む必要がありますが、オゾンのプリオンへの作用を知るうえで参考になる内容です。

研究の条件|水中・試験管内という前提

この研究で重要なのは、「どんな条件で調べられたのか」という点です。条件を抜きに結果だけを一般化すると、誤解につながります。

論文では、オゾン需要のない水(緩衝液)の中で、感染性プリオン蛋白質(ハムスタースクレイピー263K)に対して、オゾン量などの条件を変えながら不活化を調べています。主な条件は次のとおりです。

  • 対象:水(緩衝液)に薄めた感染性プリオン蛋白質
  • オゾン量:おおむね7.6〜25.7mg/L
  • 接触時間:5秒〜5分
  • pH:4.4、6.0、8.0
  • 温度:4℃、20℃

つまりこれは、空気中ではなく、水の中・試験管内でプリオン蛋白質にオゾンを作用させた実験です。人体や生体内での作用を調べたものではありません。

確認できたことと、確認できていないこと

この研究で確認されたのは、特定の条件下では、水中のプリオン蛋白質がオゾンによって不活化されうる、という点です。

論文では、オゾン量が多いほど、接触時間が長いほど、またpHが低く温度が高いほど、不活化の度合いが大きくなったと報告されています。プリオンが不活化しにくい蛋白質であることを踏まえると、これは注目に値する結果です。

著者らは結論として、オゾン需要のない水中でのプリオン不活化に有効であり、プリオンに汚染された水や排水の処理に応用できる可能性がある、と述べています。

一方で、この研究だけでは確認できていないこともあります。たとえば、実際の水処理現場のように成分が複雑な環境での効果、空気中での作用、生体内での作用などは、この実験の範囲には含まれていません。

研究結果は、あくまで「この条件での話」として受け止めることが大切です。条件を超えて広く一般化することは、避ける必要があります。

プリオン様の伝播という学説と、神経変性疾患研究の動向

近年、プリオン病以外の神経変性疾患についても、似た伝播の仕組みが議論されるようになっています。

代表的なものに、アルツハイマー病やパーキンソン病があります。これらの疾患でも、異常な蛋白質が正常な蛋白質を巻き込みながら広がっていくのではないか、という学説が研究されています。

実際、プルシナーはノーベル賞の受賞講演の際に、ほかの神経変性疾患もプリオン病に似た仕組みを取りうると示唆していました。現在も、複数の研究者がこのテーマに取り組んでいます。

ただし、これはまだ学説の段階です。これらの疾患に関わる蛋白質が、プリオンのように蛋白質単体で感染性を持つかどうかは、実証されているわけではありません。

ここで、一つの見方として、次のような連想が生まれます。もしオゾンがプリオン蛋白質を不活化できるなら、似た性質を持つほかの蛋白質にも関わりうるのではないか、という見方です。

これは、ここまで紹介した論文が示した範囲を超えた、あくまで仮説的な見方にすぎません。論文が扱ったのは水中・試験管内のプリオン蛋白質であり、生体内での作用や、病気の治療・予防を示したものではありません。オゾンは医薬品でも医療機器でもなく、神経変性疾患に対する効果が確認されているわけでもありません。

それでも、プリオンと神経変性疾患をつなぐ研究が進めば、不活化という観点からオゾンが研究上の関心を集める可能性は残されています。今後の研究動向として、注目しておく価値のあるテーマだと考えられます。

オゾンとプリオンの関係を、いまどう受け止めるか

最後に、ここまでの内容を「確認済み」と「未確認」に分けて整理します。研究の話題は、この線引きを意識して受け止めることが大切です。

確認できていることは、次の点です。

  • プリオンは、通常の消毒では不活化しにくい蛋白質であること
  • 特定の条件下(オゾン需要のない水中・試験管内)では、オゾンによってプリオン蛋白質が不活化されうると報告されていること
  • 論文では、プリオンに汚染された水や排水の処理への応用可能性が示されていること

一方で、まだ確認されていない、または今後の課題となるのは、次のような点です。

  • 成分が複雑な実環境での効果
  • 空気中や生体内での作用
  • アルツハイマー病やパーキンソン病など、ほかの神経変性疾患への展開

オゾンとプリオンの関係は、現時点では「特定条件下での不活化が示された」という段階にあります。そこから先の展望は、あくまで今後の研究にゆだねられた領域です。

こうした研究を読むときは、結果そのものだけでなく、「どんな条件で」「何を対象に」調べられたのかに注目することが、情報を正しく受け止める助けになります。

よくある質問

プリオンはなぜ通常の消毒では不活化しにくいのですか?

プリオンが、加熱や薬剤に強いとても安定した構造をとるためです。プリオンは「アミロイド」と呼ばれる固い繊維状の構造をつくり、これがエネルギー的に安定しているとされています。一般的な菌やウイルスとは異なり、通常の消毒や殺菌の条件下でも感染性を失いにくく、ごく微量でも感染性を持つとされる点も理由のひとつです。

オゾンはプリオンを不活化できるのですか?

特定の条件下では、水中のプリオン蛋白質が不活化されうると報告されています。査読論文では、オゾン需要のない水の中で、オゾン量や接触時間、pH、温度といった条件を変えて不活化が調べられました。ただしこれは水中・試験管内での結果であり、空気中や生体内での作用、ましてや病気の治療を示すものではありません。

この研究の結果は、どんな場面に関係するのですか?

論文では、プリオンに汚染された水や排水の処理への応用可能性が示されています。著者らは、オゾン需要のない水の中でのプリオン不活化に有効だと述べています。一方で、成分が複雑な実際の環境での効果や、生体内での作用は、この研究の範囲には含まれていません。結果は、あくまで条件付きのものとして受け止めることが大切です。

オゾンには、ほかにどんな用途がありますか?

オゾンは強い酸化作用を持ち、空間の脱臭や除菌、水を使った洗浄などに利用されています。気体のオゾンをそのまま使う機器と、オゾンを水に溶かして使う機器があり、用途によって使い分けられます。具体的な働きは、対象や濃度、接触時間などの条件によって異なります。オゾン発生器について

オゾン発生器とオゾン水生成器は何が違うのですか?

オゾン発生器は気体のオゾンを発生させる機器で、主に空間の脱臭や除菌に使われます。オゾン水生成器は、オゾンを水に溶かしてオゾン水をつくる機器で、洗浄などに使われます。気体と水では使う場面や扱い方が異なるため、目的に合わせて選ぶことが大切です。オゾン水生成器について