畜産業におけるオゾンの利用

最近、畜産業での特有の臭いが気にならない農場が出てきています。どんな工夫がされているのでしょうか?
ここでは、畜舎の臭い対策や家畜の感染症対策におけるオゾンの利用について勉強します。

牛舎に並んだ牛たち。
朝早くから始まる乳しぼり。

のどかな農村の情景ですが、そこに漂う何とも我慢できない臭い。
慣れてしまえば何ともないのですが、近くの住人にとっては何とも困った問題なのです。

豚小屋

畜産業が当面している問題に、畜舎の臭い対策と家畜の伝染病予防対策があります。まず、悪臭問題について、日本でのその現状、悪臭の原因物質とその評価法、悪臭に対する法的規制の現状などについて説明します。

事業所の出す臭いに対する規制を行うための法律として「悪臭防止法」があります。この法律は、市町村が、臭いの基になる特定悪臭物質あるいは臭気指数を測定し、それに基づいて規制を行うものです。

特定悪臭物質とは、悪臭の原因となることが分かっている22種類の成分のことで、アンモニア、硫化水素、トリメチルアミンなど、それぞれ特有の嫌なにおいを発する物質です。

臭気指数とは、臭気を発生する物質の濃度を人の感覚でとらえやすくするために作られた指数で、臭気判定士が臭いをかいで判定します。

臭気指数は、対象となる臭いを薄めていき、臭気判定士が臭いを感じなくなった時の希釈率で数値化したものです。

つまり、何千倍にも希釈しないと無臭化しない臭いの臭気指数は高く、数倍希釈すれば無臭化する臭いの臭気指数は低くなります。

臭気指数の目安としては、梅の花が10、ジンチョウゲの花が20、たばこが30、にんにくが45程度です。

また、臭気強度というより分かりやすい基準も用いられます。こちらは、実際の臭気を発する現場で、3 人以上の測定者が 10 秒おきに臭いをかいでその強さを集計して表すもので、0の無臭から5の強烈な臭いまでの6段階評価です。

特定悪臭物質の濃度は、化学分析により数値化できるものですが、臭気指数と臭気強度は人の感覚にたよって作られる数値です。

このような特定悪臭物質の濃度と臭気指数や臭気強度の関係は、地震のマグニチュードと震度の関係に似ていると言えます。

臭気強度は、悪臭防止法の「敷地境界線における規制基準」で利用される指数で、臭気強度が 2.5を下限、3.5を上限として規制がかかります。

問題となっている臭気が、規制範囲に入った場合には、特定悪臭22物質の濃度と臭気指数がチェックされます。

特定悪臭物質の規制対象となっているのは養豚業に多く、養牛業では少なくなっています。

また、臭気指数規制の対象となっているのは養牛業で目立ち、次いで養豚業で多くなっています。

家畜感染症原因菌
牛疫
rinderpest
牛肺疫

牛肺疫マイコプラズマ菌を原因とし、牛が感染すると呼吸器の障害を引き起こして死亡する確率の高い感染症です。日本では、1941年以降は発生していませんが、アフリカなどでは現在でも発症が続いています。マイコプラズマは細菌の一種ですが、細胞の周りを囲む細胞壁を持たないため、細胞壁を作ることを阻害するタイプの抗生物質に対して抵抗性を持ち、撲滅が困難です。

蚊

このウイルスは、アフリカの西ナイル地方で人から分離されたもので、蚊を介して人や家畜に伝染する人獣共通感染症です。人にも感染しますが重症化はしません。日本での発症例はありませんが、1990年代以降、ヨーロッパやアメリカなどでも流行しています。馬が感染して重症化すると死亡率の高い病気です。蚊の発生防止対策とワクチン接種が有効です。

日本脳炎
ヨダレを垂らした犬
蚊
ヤギの小屋
乳牛の小屋

牛、ヤギなどがヨーネ菌に感染して起きる伝染病です。牛が、慢性の下痢と乳量の減少から死に至る重病で、日本でも発症が多く、経済的損失も無視できません。

糞便中に排泄されたヨーネ菌がほかの牛に感染して広がります。

2006年にできたヨーネ病防疫対策要綱に基づき、感染牛の殺処分や農場の消毒対策が行われています。

馬小屋
ヌヌカ

ヌカカなどの吸血性昆虫が媒介するオルビウイルス感染により発症する馬の感染症です。

主に、アフリカのサハラ砂漠以南が感染地帯で、日本での発生はありません。肺炎や浮腫を主症状として死亡率の高い病気です。

羊の群れ

小反芻獣疫ウイルスによる羊や山羊の感染症で、下痢や呼吸障害を起こして死に至る感染性の高い病気です。

アフリカを起源として、南・中央アジアから中国にまで感染地域が広がってきています。日本での発生はありません。汚染国ではワクチン療法が行われています。

飛ぶ2羽の鳥

ニューカッスル病ウイルスによって引き起こされる鳥の感染症で、とくに、鶏を含むキジの仲間に良く感染します。

感染した鶏の糞の排泄物中に含まれるウイルスの接触感染で人にも感染することがありますが、稀です。

ワクチンの投与で予防可能です。鶏舎へのウイルス侵入を防止のために、衛生管理の徹底に併せて、防鳥ネットなどでの鶏舎への野鳥の侵入防止も試みられています。

土を耕す様子

腐蛆病菌が原因菌となって起こる蜜蜂の伝染病で、アメリカ腐蛆病とヨーロッパ腐蛆病の2種類があります。感染した幼虫やさなぎが腐るという症状が特徴的です。

人への感染はありませんが、アメリカ腐蛆病が発生すると、芽胞(菌体が殻で覆われたような耐久性のある構造体)が周辺の土壌や巣に散らばるため、その後の処理には、芽胞を除去する作業が必要です。

以上の感染症の多くは治療法が開発されておらず、感染個体は基本的には殺処分し、殺菌剤を使った畜舎内部や周辺部分の殺菌が行われます。

また、アルカリ成分に弱いウイルスに対しては、消石灰を鶏舎周辺に散布して感染を予防します。

抗菌・抗ウイルス効果

このような家畜感染症に対して、オゾンは効果的なのでしょうか?

オゾンが分解した時に生じる酸素原子は他の物質と強く反応する性質があります。反応する物質が細菌やウイルスなら、それらの細胞膜を破壊して、死滅させてしまいます。

この反応は他の殺菌剤にはない強力なもので、大腸菌、黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌や、インフルエンザウイルスなどを完全に殺菌します。

このため、決定的な治療法のない家畜伝染病の予防に、オゾンガス散布は非常に有効であると考えられます。

次に、病原菌に対するオゾン効果を示す実験結果が報告されている家畜伝染病を紹介します。

牛や豚などが口蹄疫ウイルス(FMDV)に感染して発症する病気で、伝染力が強く、2010年には日本で21万頭が感染して2000億円以上の損害が出ました。口、鼻、蹄、乳頭にできる水疱が特徴的で、発熱や歩行困難になります。

ウイルスの感染は、水疱内容物、糞便、乳汁などへの接触感染のほか、空気感染もあります。このウイルスは、高温や、酸・アルカリに弱いため、加熱・石灰・クエン酸などで汚物処理が行われています。

馬、牛、豚などが感染する口蹄疫に良く似た法定伝染病で水疱性口炎ウイルス(VSV)により感染します。ダニや蚊の吸血性昆虫が媒介する水胞性口炎ウイルス感染症で、アメリカが感染地域。

蹄や口腔内の水疱や発熱、よだれが主な症状で、ヒトにも感染してインフルエンザのような症状を現しますが、1週間程度で治ることが多い病気です。

プリオン病は脳に多く含まれているプリオンと呼ばれるたんぱく質の構造が変化して、この異常なたんぱく質が神経内部に蓄積し、神経細胞を変性させて起こります。

プリオン病にはいくつかの種類があり、牛の伝達性海綿状脳症(狂牛病、BSE)と人のクロイツフェルト・ヤコブ病が代表的な病気で、人が発病すると、脳にスポンジ状の空胞ができて痴呆症状を示し、1~2年で死に至ります。

治療法は現在のところ開発されていません。肉骨粉を通じた感染が疑われたため、1996年にイギリスでBSEパニックが起こったことで有名です。

A型インフルエンザウイルス感染による、感染力が強く、死亡率が高い鶏などの病気で、感染が広がると養鶏業に大きな打撃を与えるため、家畜伝染病に指定されています。無症状でいきなり死亡することが多くあり、大量のウイルスが糞や分泌物に混じって鶏舎中にばら撒かれて感染が広がります。

2010年から2011年にかけて日本で感染が広がり、200万羽近い鶏が殺処分されました。稀に人にも伝染し、その場合、非常に高い死亡率となります。

インフルエンザウイルスは強いアルカリ成分に弱いため、消石灰を鶏舎周辺に散布して感染予防します。

これに対して、オゾンガスを使った殺菌法が検討されています。オゾンは、実験室内でA型インフルエンザウイルスを1分間で不活化するとのデータがあります。

こうしたことから、鳥インフルエンザの予防には、鶏を一時別の場所に移した上で、鶏舎内にオゾン発生器を設置し、オゾンを長時間発生させて殺菌を行うという方法が考えられます。

この場合に用いるオゾン発生器はなるべくハイパワーで、強力なファンを持つタイプが望ましいと考えられます。

感染力の弱い低病原性鳥インフルエンザという病気もあります。

以上、家畜伝染病の病原菌に対するオゾン効果を示す実験結果のいくつかを紹介しました。ただ、これらは、実験室内で病原菌をオゾン水に接触させて、オゾン水の殺菌効果を調べたものです。

以下に、実際に畜舎内でオゾンを使って殺菌できる可能性が指摘された、いくつかの伝染病を紹介します。

炭疽菌の感染症です。この菌は、土の中にいる納豆菌の仲間の細菌で、コッホによって人類史上初めて発見された病原細菌です。炭疽菌は、環境条件が悪化すると芽胞を作り、休眠に入ります。

炭疽菌の芽胞を動物が食べると体内の良い環境中で炭疽菌が目覚めて、再び活動を開始します。炭疽菌に犯された動物は、血液が菌まみれになって死んでしまいます。

死骸から出た炭疽菌は周りの環境中にばらまかれ、または芽胞となって延々と蔓延していきます。このようなことから。この菌の完全な撲滅はとても難しいものです。
植物に感染した炭疽菌の殺菌を、オゾン水を使って試みた報告を紹介します。

炭疽病に感染したイチゴ苗にオゾン水(5mg/ℓ)を潅水、あるいは散布した結果、一般の殺菌剤よりも弱いながらも一定の効果を示しました。大きな効果が出なかったのは、オゾンに定着性がないためと思われます。

このデータは家畜についてものではありませんが、オゾンの炭疽病菌の殺菌力を示す一例です。ただし、炭疽菌のように芽胞を作る菌の殺菌は容易ではなく、オゾンを一般の殺菌剤と併用するなどして、その殺菌力を強めて対応する必要があります。 

ウシ型結核菌による呼吸器感染症で、家畜や汚物との接触を通じて動物や人にも感染する伝染病です。咳や呼吸困難から全身症状が悪化して死に至ります。最近は菌の排除が進み、発見される保菌牛は0.01%以下にまで減っています。

結核は空気感染するため、人の結核感染予防のために、病院の待合室などに低濃度タイプのオゾン発生器を設置するところもあります。

病院と同様に畜舎内に低濃度タイプのオゾン発生器を設置して、家畜の結核感染を予防することが可能であると考えられます。

このように、家畜伝染病対策にオゾンが使われているいくつかの実例がありますが、まだまだ少なく、今後の一層の利用拡大が求められます。オゾンの利用方法として最も効果的なのは、畜舎内にオゾンガスを噴霧して、畜舎内をオゾンガスで充満させ、一気に殺菌を行うという方法です。

ただ、この方法では、家畜を一時的に畜舎から外に避難させる必要があることと、高濃度のオゾンガスを噴霧するため、作業者の十分な対応が求められることに注意が必要です。

ダニが媒介する牛のピロプラズマ原虫感染症で、発熱や貧血症状を示します。治療薬には抗原虫薬のジアミジンや抗生物質が使われますが、副作用の問題も含んでいます。日本での感染牛は1978年をピークに、その後は、沖縄県を除いて減少しています。感染予防対策として放牧場で殺ダニ剤が使われています。

ダニが媒介する牛の細菌感染症で、微生物の一種のリケッチャが原因で発症し、ピロプラズマ病と混合感染している場合が多くあります。リケッチャが血液に感染した牛では、発熱、貧血、黄疸症状が現れます。

ピロプラズマ病に比べて完全制圧が難しい病気です。この2種類の感染症は、クリプトスポリジウムに近い種類の原虫が関係しているので、オゾンによる殺菌効果が期待できます。

また、ダニに対しては、直接ダニを殺傷することはできませんが、ダニがオゾンを嫌って逃げるため、ダニの除去効果が見込めます。

畜舎の備品

オゾンガスは強力な殺菌作用を持つだけでなく脱臭効果にも優れていて、畜産業の持つ感染症対策と悪臭対策という2つの大きな問題を一挙に解決してくれる優れたアイテムです。

これで、事業者と住民とのトラブルが少しでも収まってくれたらいいのですが。

でも、のどかな牛の声に混じって、どこからともなく流れてくるあの臭いが全く無くなってしまうというのも、なんだか寂しい気がしますね。

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