水産業におけるオゾンの利用

養殖ならではの大きな問題があります。それは、養殖場での感染症の発生です。
閉鎖空間になっている養殖場では、一度病気が発生すると、一気に大量斃死につながる危険性をはらんでいるのです。
ここでは、魚介類の養殖における感染症の問題と、それに対抗する手段としてのオゾン水殺菌について紹介します。

私たちが毎日食べている魚の多くが養殖魚ということをご存知ですか?天然魚と養殖魚の違いを見分けることのできる人はほとんどいませんね。
それほどまでに、日本の養殖技術は進んでいます。
日本沿岸に生息する食用魚は約500種類で、そのうちの約1割が養殖されています。

オゾンマート漫画
養殖と感染症対策

1.1. 陸上養殖での殺菌の重要性

以前は、漁業と言えば、海や川での天然の漁法が主でしたが、近年では、養殖が盛んに行われるようになっています。養殖魚の中には「近大マグロ」のように、天然物を超える品質で、ブランド化している養殖魚もあるほどです。

養殖には、海の中に網で囲いを作って天然海水を使って養殖する天然養殖と、陸上に大きな生け簀を用意して、その中に海水や淡水を入れて養殖する陸上養殖とがあります。陸上養殖は天候に左右されずに養殖でき、作業もやりやすくて安全なのですが、狭い生け簀の中で大量の魚介類を養殖する弊害も出てきます。

その最大の問題が魚病の発生で、生け簀内で細菌やウイルスが増殖しやすいことや、一度、感染個体が出ると短時間に一気に感染が広がって大量斃死につながる危険性があります。
感染症発生は、養殖業者が、飼育用水、餌の種類や量、配管を含めた飼育施設の管理にいかに注意を払っても、完全に防ぐことはできません。

魚病への対策として、魚卵、飼育用水、配管を含む施設全体の消毒・殺菌が行われています。
そのうちで最も重要とされるのが、飼育用水の殺菌です。
現在、主に、塩素消毒や紫外線殺菌によって行われていますが、有毒物質の残留性や効果などの点で理想的な殺菌方法とは言えません。

魚介類の殺菌

2.1. 魚介類の感染症とその原因菌

では、まず、代表的な魚病とその原因菌を紹介します。

パスチュレラ菌感染症

ビブリオ病

魚類の感染症として古くから知られたビブリオ病菌を原因菌とする、サケ・マス・鮎に特有の死亡率の高い病気です。
飼育環境の悪化に伴って発生するとされています。
人にも感染する食中毒菌で、死者まで出ることがあります。
除菌には、抗生物質が使われます。

エンテロコッカス菌(連鎖球菌)感染症

魚の連鎖球菌症は、養殖ブリの最も重要な細菌性魚病です。
ブリ以外にも、カンパチ、タイ、アジ、ウナギ、ニジマス、鮎など海生・淡水生を問わず、多くの魚種が感染します。
抗生物質による治療が行われます。

このほか。
淡水魚に特有の感染症として、せっそう病、口赤病、冷水病、伝染性の膵臓や造血器の壊死性ウイルスなどがあります。

2.3. 養殖現場でのオゾン殺菌の方法

2段階システム(高濃度オゾンの反応タンク内投入―フィルターろ過後に飼育水として利用)

魚介類の養殖用水のオゾン殺菌に際して、いくつかの工夫が行われているので紹介します。

まず、一般的に行われているように、オゾンを直接、養殖用水中に吹き込むのではなく、発生させたオゾンを反応タンク内で養殖用水と混合してオゾン水による殺菌を行い、その後、活性炭フィルターに残留オゾンや発生したオキシダントを吸着させて取り除き、クリーンになった水を生け簀に戻すという前述の方法です。

このようにすることにより、殺菌効果による養殖魚の斃死防止や水の腐敗防止が行われるだけでなく、オゾンの脱色効果による水の透明度アップと脱臭効果が期待できます。
さらに、カキなどの内臓内に雑菌を持つ貝類体内の除菌効果も見込めます。
ちなみに、このようなシステムには、オゾン発生量が5~1000mg/ℓのハイパワーな装置が使われますが、これですとかなりの大きさの生け簀にも対応可能です。
先に紹介した「オゾンによる魚類飼育用水の殺菌法 : 特に海水への応用」からヒラメの養殖での実例を紹介します。
ヒラメ飼育用海水を1.0mg/ℓで8.5分処理し、活性炭で残留オキシダントを除去した結果、海水中の細菌数が、処理前と比べて1万分の1にまで減少しました。
この処理海水中でヒラメ稚魚を飼育したところ、体長・体重ともに、未処理海水中での養殖魚を上回っていました。
これは、オゾンによる細菌除去が良い影響を与えたためです。

マイクロバブルの利用

魚の養殖場

(1) メリッ

メリット

・一度、オゾン発生器を購入すれば、ランニングコストがかからない
・養殖に際して、殺菌効果が見込める上に、脱臭効果も期待できる
・殺菌効果が非常に強い
・殺菌可能範囲が、生体、飼育器具、水槽、排水管など広い範囲に及ぶ
・毒性が残存しない

(2) デメリット

デメリット

・生け簀を浄化するのに十分量のオゾンを発生させるためのオゾン発生器は、大型でハイパワーになり、購入コストがかさむ
・魚種、菌の種類、水槽のサイズ、養殖用水の種類などでオゾン効果が大きく違うため、細かい条件設定を行ってから、最適なオゾン使用条件を決める必要がある
・水族館やなどの室内飼育施設でオゾンを用いる際には、人体への毒性に十分に注意を払う必要がある
・オゾン水ではオゾンが抜けやすい

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魚介類の感染症については、家畜の感染症と比べて解明が遅れています。
その経済的な価値から、魚類についてはある程度の研究が進んでいますが、エビ、カニ、ウニ、貝類、さらには海藻類などの病気については、ほとんど手つかずの状態です。

近い将来、魚類以外の海の生物へのオゾン利用が期待されます。

さて、オゾン水で飼育した金魚が1mにも巨大化したなどという話がネットに上がったことがあります。
これは、明らかにフェイクニュースだとしても、オゾンの生物生育促進効果についてはあまり詳しく調べられていません。
今後、オゾンの生物生育に関する研究から、何か面白い事実が出てくるかもしれませんね。