野菜の保存技術研究~オゾンを利用した野菜の保存条件検討

収穫した野菜を消費者に届けるまで、できるだけ長期間新鮮な状態に保ったまま保存することが、食料の安定供給や食品の安全につながる非常に重要なことです。

野菜の品質低下(鮮度低下)の最も大きな要因は、付着微生物による腐敗にあります。

収穫した野菜を消費者に届けるまで、できるだけ長期間新鮮な状態に保ったまま保存することが、食料の安定供給や食品の安全につながる非常に重要なことです。

野菜の品質低下(鮮度低下)の最も大きな要因は、付着微生物による腐敗にあります。

このため、色々な殺菌剤が開発されてきました。

しかし、それら薬剤は、健康への影響という大きな問題をはらんでおり、できる限り使用を控えることが求められます。

このため、より安心・安全に野菜を保存するための新しい方法が模索されてきています。

そのような中で、強力な殺菌効果を持ちながら残存性のないオゾンへの注目が集まっています。

オゾンには気体のオゾンガスとオゾンガスを水に溶け込ませたオゾン水がありますが、いずれの効果も同じであり、対象や使用条件に応じて選ぶことが可能です。

本研究では、野菜の保存に対するオゾン効果を確認するために、市販の野菜を使って、付着細菌数を指標として実験を行いました。

殺菌処理効率の比較には、水道水洗浄、オゾン水洗浄、水道水洗浄―オゾンガス暴露、オゾン水洗浄―オゾンガス暴露の4通りの実験系を用意しました。

 なお、本記事では、関連する以下の3種類の論文で報告されている2種類の実験について詳細を明らかにします。

論文1:Naitou H.&Tani,Y.,Verification of the efficacy of ozonated water in preventing food poisoning from cucumbers, 環境オゾン研究, 22-4, 2015.

論文2:内藤博敬;野菜の保存技術研究~オゾンを利用した野菜の保存条件検討:調査・報告・学術調査(野菜情報2018年9月号)、alic(独法、農畜産業振興機構).

論文3:内藤博敬、戸敷浩介;平成29年度野菜関係学術研究委託調査報告書(詳細版) 国産野菜の貯蔵、保存、陳列を目的としたオゾンの利用条件検討.


実験1
市販のキュウリ10個を各試験に用いました。

サンプルの洗浄は、大量調理施設衛生管理マニュアル5)に従い、衛生害虫、異物混入、 腐敗・異臭等とチェック後に水洗しました。洗浄は水道水またはオゾン水で行い、オゾン水濃度は、0.5,1,2,4mg/Lとし、タッパー内で3回繰り返しています。

オゾン水はOPENICS-220(Nikka Micron)を使って4mg/Lの濃度になるようにして作成し、作成後ただちに超純水にて所定の濃度まで希釈しました。

オゾン水中のオゾン濃度はPack Test(共立化学―チェックLab)でキュウリの処理直前に確認しました。

実験2
ゴーヤ、ミニトマト、ニンジン、ピーマン、ナス、キュウリを論文1と同様に点検後、水洗しました。

タッパー内で、野菜の種類ごとに100ml~500mlの水道水あるいはオゾン水(4mg/L濃度)で、3回ずつ水洗。オゾン水生成装置とオゾン濃度測定には同上の装置を用いています。

恒温器内でのオゾンガス曝露には、多重リング式コロナ放電オゾンガス発生装置(maxcell社、MXAP-AR200WH)を用いて、恒温槽内のオゾン濃度を0.05ppmになるように調節して行いました。

オゾン水生成器をチェック

洗浄後のサンプルをステンレス保存庫内で室温(20℃±5℃)保存し、その後、試験に供しました。

試験用サンプル5gを切断し、10mlの液体培地に浸した、そこから100μlを採取して寒天培地に展開し、37℃、24時間静置培養して、生菌数を確認しました。

オゾン水生成器をチェック

キュウリから8種類の細菌が同定されました。
それらは、Enterobacter cloacae(水や土壌中に多い感染症の原因菌), Escherichia hermannii(大腸菌の仲間)、Kosaconia cowanii、Staphylococcus aureus(ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌のような病原性を持つ種類もある))、Salmonella bongori、S. sciuri(これら2種はサルモネラ菌の一種)、Acinetobacter calcoaceticus、A.oleivorans(院内肺炎原因菌)です。

これらのうち、最初の4種は人由来の細菌と思われ、また、最初の3種は、受精か栽培過程でキュウリに感染したものと推定されました。

 残りの4種は人から分離されたことが無く、環境由来のものと考えらます。特に多くの食品汚染源になるケースが多いSalmonera bongoriは、爬虫類の定住菌です。

環境由来細菌の汚染源は不明ですが、販売陳列中、高温での貯蔵中、浅漬のような高栄養状態下での汚染が考えられます。

ゴーヤ、ミニトマト、ニンジン、ピーマン、ナスに付着していた細菌に対しては、洗浄による除去効果が認められました。

 生ゴーヤで10^4オーダーあった細菌数が、水道水やオゾン水洗浄後には10^3オーダーに減少。

生ミニトマトの生菌数は10^3オーダーで、洗浄後も若干減少した程度でした。

生ニンジンの生菌数は10^3オーダーと大きかったものの、水道水洗浄で10^3弱に、オゾン洗浄で10^3オーダーにまで減少。

ピーマンの生菌数は10^2オーダーで、洗浄後も目立った減少は認められませんでした。同様に、10^6近くあったナスの生菌数も、洗浄後も余り大きくは減少しませんでした。

このように、洗浄効果は野菜の種類によって異なり、ゴーヤとニンジンでの効果が大きく、反対にミニトマト、ピーマン、ナスでは除去度合いは少ないものでした。

細菌の除去率はオゾン水洗浄の方が大きく、ゴーヤでは洗浄前と比べて10倍以上、ニンジンでは100倍以上にもなり、とくにニンジンでは水道水洗浄と比べても50倍で除去率が向上していました。

①水道水-オゾンガス非暴露、②オゾン水-オゾンガス非暴露、③水道水-オゾンガス暴露、②オゾン水-オゾンガス暴露

洗浄後のゴーヤの生菌数は10^4から10^3オーダーまで減少したものの、保存期間中に①、②、③の3条件では、細菌数が108/gオーダー程度まで急増しました。④の場合のみ10^4程度と保存前と比べて10^1程度のわずかな増加にとどまっていました。

ミニトマトでは、保存前の10^4オーダーから①の条件で10^8オーダー近くまで急増。しかし、②、③では10^4オーダーで保存前よりやや増加した者の静菌効果が認められ、さらに、④では10^3と保存前よりも減少していて、殺菌効果も認められました。

ニンジンでは、洗浄効果が大きかったものの、その後の貯蔵期間中に、オゾンに暴露しない場合には10^7~10^8オーダー近くまで菌量が増加。ただし、③と④オゾン暴露しながらの貯蔵の場合には10^4強と静菌作用が認められています。

 洗浄前後で菌数が10^2オーダーと少なかったピーマンは、オゾンに暴露しないで保存した場合には10^4オーダーまで菌数が増加。

水道水洗浄後にオゾン暴露しながら保存すると10^3個程度の細菌数で、オゾン水洗浄後にオゾン暴露しながら保存すると細菌の生育が認められませんでした。

これは、この条件下での殺菌作用の強さを表すのか、あるいはもともとの細菌数が非常に少なかったための誤差の範囲のものか断定できません。

 洗浄前後で10^5~10^6とあまり変化がなかったナスでは、オゾン暴露なしで保存した場合には菌数が107オーダーまで菌数が増加したものの、水道水で洗浄後にオゾンガス暴露して保存した場合には104オーダーと殺菌効果が認められました。

ナスでもピーマンと同様に、オゾン水洗浄後にオゾン暴露しながら保存すると細菌の生育が認められませんでした。

ナスの場合には処理前の付着生菌数が非常に多いため、この結果は、オゾン水洗浄とオゾンガス暴露の相乗効果が極めて有効に働いたと考えられます。

オゾン発成器をチェック

水道水またはオゾン水で洗浄後7日間オゾン曝露したニンジンで、元の含水量と比べて10%近くが減少したものの、それ以外の野菜での水分量消失は数%程度であり、オゾン暴露野菜とオゾン非暴露野菜との間での水分消失量に顕著な違いは認められませんでした。

オゾン暴露ニンジンでの大きな水分消失は、オゾン曝露した場合に生じた空気の対流のせいとも考えられます。

比較のために行った葉物野菜のレタスの場合、水分含有量が急激に低下して品質低下が著しく、検討対象にはなりませんでした。

また、ジャガイモでは、洗浄後には、やはり急激な水分消失が起こり、こちらも検討対象サンプルとしては不適切でした。 

サンプル中のポリフェノール含有量およびビタミンC含有量の分析では、保存前と後とで含有量に違いは認められませんでした。 

保存中のサンプル中のエチレンガスの検出を行いましたが、検出されませんでした。オゾンガスによってエチレンが酸化されて検出限界を下回った可能性があります。

ミニトマトとナスのサンプルでは、オゾン水洗浄―オゾン非暴露あるいはオゾン水洗浄―オゾン暴露サンプルで、水道水洗浄―オゾン暴露や水道水洗浄―オゾン非暴露サンプルよりも光沢が強いことが判明しました。

このことは、オゾン水処理が効果的であることを示します。これは、野菜表面に付着する有機物(微生物を含む)がオゾン水処理で除去されたためと推察されます。

 ニンジンでは、水道水洗浄後にオゾン非暴露状態で保存したサンプルの一部分が黒変して腐敗が生じていました。

事実、このサンプルでは、細菌数が107個/gオーダーに増加。一方、オゾン処理(オゾン水処理かオゾン暴露、あるいは両方の処理)を加えたサンプルでは腐敗現象は認められていません。

この結果は、オゾン処理が細菌増殖抑制に効果的であったことを示すものです。

 密閉保存条件下で行った本実験系では、オゾン処理で野菜の腐敗を進める細菌の増殖を止められることを明らかにできましたが、野菜のエチレン放出量については、オゾンによるエチレンガス酸化のせいで計測できなかった可能性が指摘されています。

このため、今後は、開放系の容器を用いた試験を行う必要があります。

その場合には、実際の販売空間あるいは冷蔵ショーケースなどの中でオゾンガス曝露する方法が試みられるべきです。

 一方、密閉容器内でのオゾン処理に関して、オゾン水の噴霧や、オゾン水循環槽の中での保存についても、今後検討していきたいとしています。