アブラムシ退治にオゾンは有効か?
ここでは、オゾンを使ったアブラムシ駆除の試みを紹介します。
※当記事では虫の画像がたくさん使用されています。苦手な方はご注意下さい。
「台所―女性の悲鳴」でgoogle検索すると、真っ先に「台所でのゴキブリ出現」の記事が出てくるほど、怖い生き物の代表になっているゴキブリのことを「アブラムシ」と呼ぶこともあります。
※ゴキブリを「アブラムシ」と呼ぶ人が多かったのは江戸時代のときで、関西などでは今でもアブラムシと呼んでいる人がいます。光沢のある体を見て「油虫」と呼ぶようになったのが由来だそうです。
女性の天敵でも、害虫としては集団で悪さをする本家アブラムシの方がはるかに上手(うわて)です。
アブラムシとは
種類
アブラムシは、名前に「ムシ」と付くことからも分かるように、嫌なにおいを出すあのカメムシの仲間の昆虫です。
日本には、色も形も違う700種類ほどのアブラムシがいて、それぞれ寄生する植物が決まっています。
サイズは数ミリ程度です。
アブラムシの餌は植物の師管の中を流れる栄養分に富んだ師管液で、植物に群がって、集団で液を吸い取ります。アブラムシに栄養分を吸い取られた植物やウイルスに感染した植物は、生育不良になり枯れてしまうこともあります。
このため、アブラムシは作物や園芸植物の害虫として忌み嫌われる存在です 。
天敵
テントウムシの成虫や幼虫がアブラムシの天敵として知られていて、アブラムシ駆除の代表的な存在です。
また、コレマンアブラバチなどのアブラバチや、ヒラタアブというハチに似た昆虫の幼虫もアブラムシが大好きで、一匹で500匹ものアブラムシを食べると言われています。
警報フェロモン
アブラムシには、危険を察知すると警報フェロモンと呼ばれる成分を分泌して仲間に知らせたり、蟻を引き寄せて天敵に対抗したりする面白い習性があります。
アブラムシを顕微鏡で観察すると、なかなかチャーミングな形。
体色も多彩で魅力的なので、隠れアブラムシファン(?)もいるようです。
興味のある方は、アブラムシの世界をのぞいて見てください。
アブラムシ被害
アブラムシはどうやって植物に被害を与えるのか?
若い葉や茎、新芽、枝、花弁に寄生して、栄養分を吸い取ります。
栄養分の中にはアミノ酸が豊富に含まれています。
また、アブラムシが分泌する排泄物中の糖分(甘蜜)が養分となって糸状菌が発生。糸状菌が感染した果実は色が黒くなって商品価値が無くなってしまいます。
葉に感染すると、葉が黒変して光合成ができなくなって衰弱する「すす病」になります。
アブラムシはウイルスを持っていて、それを植物に伝染させる悪役です。ウイルス病としては、モザイクウイルスが有名です。
アブラムシ被害の状況
福田(2015)によれば、植物の虫害の中ではアブラムシ被害が目立って多く、調査した企業の86%や農家の54%で報告されています。
被害を受ける植物は、木本類から野菜や果物まで多岐に及びます。
ジャガイモや大豆の害虫として有名なジャガイモヒゲナガアブラムシは、ピーマンにも被害を及ぼし、この虫が発生したピーマンの新葉は黄色くなり、果実には斑点が出て奇形化します。
この虫は発生時期が一定でないため、天敵コレマンアブラバチ効果も余り期待できません。
また、鳥取県で2018年6月に、アブラムシとハダニの大量発生により、1.5haの畑で40万株の小松菜がわずか2・3日で全滅しました。
発生後、直ちに非農薬系の薬剤で対応したものの効果はありませんでした。
この結果は、有機的な手法のみでは不十分なことを示しています。
アブラムシ駆除の方法
出典:NORO 独立行政法人 農薬・食品産業技術総合研究機構
福田(2015)によれば、植物の虫害の中ではアブラムシ被害が目立って多く、調査した企業の86%や農家の54%で報告されています。
被害を受ける植物は、木本類から野菜や果物まで多岐に及びます。
ジャガイモや大豆の害虫として有名なジャガイモヒゲナガアブラムシは、ピーマンにも被害を及ぼし、この虫が発生したピーマンの新葉は黄色くなり、果実には斑点が出て奇形化します。
この虫は発生時期が一定でないため、天敵コレマンアブラバチ効果も余り期待できません。
また、鳥取県で2018年6月に、アブラムシとハダニの大量発生により、1.5haの畑で40万株の小松菜がわずか2・3日で全滅しました。
発生後、直ちに非農薬系の薬剤で対応したものの効果はありませんでした。
この結果は、有機的な手法のみでは不十分なことを示しています。
天敵の利用
天敵のテントウムシなどを、アブラムシが繁殖している適当な時期にハウス内に放します。
テントウムシの幼虫に人為操作を加えて、生体になっても飛べなくした幼虫を販売しています。
1頭100円くらいで、サイズの割にお高い商品です。
コレマンアブラバチなどのアブラバチの種類も有名で、この蜂をボトルに詰めたアブラムシ駆除商品もあります。
こちらは、1匹20円程度です。
バンカー法
バンカー法という天敵を利用した高効率のアブラムシ駆除法です。
圃場内に天敵を培養する小さな空間(バンカー=天敵補完銀行)を用意し、バンカーから常に元気のいい蜂を圃場内に供給して、高い効率でアブラムシ退治ができる優れた方法です。
また、アブラムシの発生予防にも使えます。
この方法の問題点は、システム構築に手間がかかることや、バンカー内で常に一定数の蜂を飼育するのが大変なことです。
忌避植物の導入
アブラムシの嫌う臭いを発散するハーブの類を栽培植物に混ぜておき、アブラムシが寄り付かなくさせる方法です。
小道具の利用
・防虫ネット
栽培区域やハウスの周りに防虫ネットを張り巡らせて、アブラムシが栽培地域内に入れないようにする方法があります。
もちろん、アブラムシ以外の虫の侵入予防にもなります。
この方法だと、空中からの侵入は防げても土壌からの侵入は防げません。
・黄色のテープ
飛んでくるアブラムシを、黄色の粘着テープ(アブラムシは黄色が好きです)に貼り付けて殺す方法です。
害虫捕獲粘着シート・ムシナックスが㈱キング園芸から販売されています。
・光の反射
アブラムシの嫌がる光の反射を利用する方法です。
アルミホイル、アルミマット、CD,DVD,BDなどの反射アイテムを使います。
・その他
近赤外線除去フィルムコーヒーカス、唐辛子、にんにくなどにアブラムシの忌避効果があると言われていますが、効果の程は不明です。
これらの小道具の使用に合わせて、手で地道に虫取りを行います。
3.1. から3.3.の方法は、アブラムシの発生予防、あるいは発生初期には効果がありますが、発生数が一定程度を超えてしまうと、効果は期待できません。
また、発生の予防には、アブラムシが好む窒素分を多く含む肥料を控えることも推奨されています。
溶液散布
・薬剤散布
農薬の一種の合成殺虫剤を散布すると効果は強力ですが、人体や環境への影響が懸念されます。
とくに、植物工場のような閉鎖空間内で使うことにはリスクがあります。
・水や牛乳の散布
アブラムシの付着している部分に、水をかけて洗い流す、あるいは牛乳を撒いて窒息させてしまうというシンプルな方法です。
牛乳を撒いた場合には、除去するのにかなりの労力がかかります。
・粘着君または片栗粉溶液の散布
粘性の高い溶液を噴霧して、アブラムシを窒息死させる方法。
一定の効果はありますが、処理に時間がかかり、処理後の清掃が大変です。
出典:Amazon.co.jp
植物工場内でのオゾンを利用したアブラムシ駆除
以下に一例を紹介します。
レタスを小規模な植物工場内で栽培中にアブラムシを発見。植物工場内で一度(ひとたび)アブラムシが発生すると、あっという間に工場内部の全栽培植物に感染が広まります。
アブラムシ防除に、農薬を使うことはもちろん禁忌ですし、かといって、無農薬の手段では生ぬるくてほとんど効果はありません。
この事例では、防御策を講じる間もなく被害が拡大したため、天敵、忌避植物の導入、物理的方法などは手遅れで使えない状況でした。
植物体への影響が最小で、かつアブラムシへの影響が最大の方法として、オゾンを使った駆除方法にトライすることにしました。
オゾンの特徴
オゾンとは「O₃」と言う化学式で表される、酸素(化学式の中の「O」)が3つ結合している物質で、強い酸化力を持っています。
オゾンについて詳しく知りたい方は「オゾンって何?基本的なことをしっておこう」をご参照下さい。
オゾンやオゾンを溶かし込んだオゾン水の強い酸化力には細菌を殺す力があり、生鮮食品や野菜などの食品の除菌用、医療・美容用、農業・畜産業用、漁業用など多くの産業分野で利用。
殺菌効果のあるオゾンの濃度については、4ppm**のオゾン濃度のオゾン水で15~30秒間手洗いするだけで、完全な殺菌効果が得られるというデータが示されています。赤堀幸男ら、日集中医誌、7, 2000.
このように強い効果があるだけに、オゾンは吸い込むと危険です。
オゾン濃度0.02ppm以上でかすかな臭いを、0.1ppm以上で臭いと刺激を感じ始め、1ppm**以上で人体に危険が及びます。
このため、産業衛生学会許容濃度委員会では、オゾンのある空間での日本での作業許容濃度は、0.1ppmと定めています。
**1ppm は、500mlのペットボトルの水に食塩を0.5mg(塩5粒ほど)を入れた時の濃度を表す非常に小さな単位です。
オゾンがなぜアブラムシ駆除に有効なのか?
細菌やウイルスをオゾンに暴露すると、菌類表面の細胞膜が破壊され、細胞内に浸透したオゾンがタンパク質(酵素)を攻撃してその活性を失わせ、細菌類は死滅に至ります。
一般的には、アブラムシのような大きな生物への致死効果は確認されていません。
しかし、約1.7ppmのオゾン水を20秒間噴霧して野菜に付着したアブラムシの98%を除去したという報告もあります。
WO2014-141400号 オゾン発生噴射装置並びに背負い形オゾン消毒装置 – astamuse(astamuseは2022年2月21日にサービス終了のためこのリンクは削除されました)
アブラムシに使用した場合、糞中の甘露に含まれるフェロモン物質(誘引物質)を分解して、アブラムシのコロニーでの情報伝達を阻害、集団での生活を維持できなくさせます。
また、甘露で誘引される蟻が集まらないため、防護生物がいなくなり、天敵の攻撃を受けやすくなることなどにより、アブラムシのコロニーは縮小するとされており、アブラムシに付着していたウイルス除去にも効果的です。
オゾン発生には小型オゾン発生装置が使われました。
栽培装置全体をビニールシートで完全に覆った上で、隙間のできないように、天井部分から床部分まで満遍なくテープで目張り。
その上で、テープの一部に穴をあけて、オゾン発生器のオゾン吐出口から伸ばしたビニールパイプを挿入して、挿入部をしっかりとテープ止めしました。
内部のオゾン濃度が4~5ppm程度になるように1時間オゾンを流入させましたが、濃度は0.4~0.5ppm以上にはなりませんでした。
この状態で一晩放置し、次の日に、換気を十分に行いながら覆いを開放してオゾンを排出しました。
オゾン処理後もアブラムシの数は以前と同じで、その後1週間、その状態をキープできました。
一方、オゾン処理した次の日に、残ったアブラムシに「粘着君」を、霧吹きで噴霧したところ、次の日にはほとんどの個体が窒息死しており、その後、1週間経っても新たなアブラムシ感染は起こりませんでした。
なお、「粘着君」処理のみでは、1週間後に、再びアブラムシ感染の発生が確認されています。
しかし、「粘着君」の使用に際しては、使用した液体が循環液肥に混入するため、一度システムをストップした上での作業となり、処置が極めて面倒です。
とくに、水以外の成分が装置の配管システム内に混入すると、その後の除去操作に膨大な労力がかかってしまいます。
オゾンを使ったアブラムシ駆除方法のメリット
この方法の最大のメリットは、何といってもその強力な殺菌効果で、他のどんな種類の駆除方法とも比較にならない力を発揮します。
アブラムシの場合には、ウイルスの殺菌効果に大きな威力があります。
気体のために、葉の裏や細かい皺などの溶液が入りにくい部分も十分に暴露されることが完全除菌につながります。
また、殺虫剤のように残留せず、噴霧剤のような液体を使用した場合に必要となる面倒な装置のメンテも全く必要ありません。
植物体への影響(その後の成長阻害など)は、オゾンに暴露された時間が短いため、とくには認められませんでした。
オゾンを使ったアブラムシ駆除方法のデメリット
この方法の最大の問題は人体への危険性です。
ただし、人体に危険が及ぶような高濃度にする必要もなければ、施設内をそんな高濃度にすることもできませんので、あくまでも、十分に注意しておきさえすれば大丈夫です。
オゾン発生装置を購入すれば、何度駆除操作を行っても費用はタダですが、初期費用として発生装置の購入代金がかかるのが難点です。
ただ、この装置を持っていれば、オゾン水を作って色々なものの殺菌に使えますから、結局は安い投資になります。
オゾンを使った効果的なアブラムシ駆除方法は
このように、オゾンだけでアブラムシ駆除を行うことはできなくとも、他の方法と組み合わせることによって大きな効果を得ることができました。
これは、オゾンが虫体を死滅させられなくとも、少なからず打撃を与えていることによるものと推察されます。
まとめ
オゾンを使ってアブラムシの駆除は、他の方法と組み合わせることで効果をあげられることが分かりました。
ただし、オゾンを使ったアブラムシ駆除方法は未だあまり試みられていませんから、どの方法と組み合わせるのが一番効果的なのかの検討や、操作手順やオゾン濃度、処理時間等の検討も必要です。
また、オゾン水を、アブラムシが寄生した植物に直接噴霧する方法や、オゾンガスとオゾン水の併用も試してみる価値があると思われます。
*1 アブラムシ特集
https://mushinavi.com/pickup/aphid.htm
*2 暮らしを快適に変えるヒント
https://fumakilla.jp/foryourlife/264
*3 アブラムシの天敵
https://inakasensei.com/tenteki
*4 アブラムシフェロモン
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aez1966/11/4/11_4_340/_pdf/-char/en
*5 ムシナビ
https://mushinavi.com/
*6 日本植物防疫協会
http://www.jppa.or.jp/shiryokan/pdf/64_07_30.pdf
*7 実態調査
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphytopath/81/2/81_127/_pdf
*8 TREE&NORF
https://treeandnorf.com/
*9 むし工房
https://www.rakuten.ne.jp/gold/mushimeister/
*10 charm
https://www.shoppingcharm.jp/ItemDetail.aspx?itemId=360960
*11 アブラムシ対策用「バンカー法」技術マニュアル
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/narc_BankerManual-all.pdf
*12 フマキラー
https://fumakilla.jp/foryourlife/264
*13 キング園芸株式会社
https://www.kingengei.co.jp/products/category01/
*14 農業および園芸
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010753222.pdf
*15 HORTI by Green Snap
https://horti.jp/4677
*16 シンジェンタ
http://www.syngenta.co.jp/cp/columns/view/?column_id=12
*17 粘着くん
http://www.greenjapan.co.jp/nenchak_s.htm
*18 東京都水道局
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/topic/13.html
*19 日本食品工学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfe2000/2/3/2_3_103/_pdf/-char/ja
*20 日集中医誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm1994/7/1/7_1_3/_pdf
*21 無農薬オゾンミスト消毒装置
http://environmentlab.com/ozonemist.pdf
*22 オゾンによる殺菌機構
http://www.jcamnet.jp/data/pdf/06016.pdf
*23 asta muse
https://astamuse.com/ja/published/JP/No/WO2014141400